手でペンを持ってノートをとるのではなく、頭で考えただけで自動的に文字を書いてやりとりができたら便利ですよね。そんな夢のような技術がすぐそこまで来ています。
ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)とは、体を動かしたり話したりする能力を失った人でもコミュニケーションをとれるようになる希望の技術でもあります。従来の研究では、手を握ったり伸ばしたりなど単純な動作のみが可能とされてきました。しかし、タイピングや筆記など、より複雑かつ高速な運動が可能となればより自然なコミュニケーションが可能となるかもしれません。
2021年5月12日、その可能性を示唆する論文がFrancis Willettらの研究グループによって最も有名な科学雑誌の一つであるNatureに発表され、注目論文としてnature asiaにも取り上げられました。
実際の英語論文はこちら
High-performance brain-to-text communication via handwriting. (2021)
Francis R. Willett、 Donald T. Avansino、 Leigh R. Hochberg、 Jaimie M. Henderson & Krishna V. Shenoy. Nature volume 593、 pages249–254
本研究では、想像上の手書き動作を大脳運動野の神経活動からデータとして復元し、リアルタイムでテキストに変換する「皮質内BCI」を開発しました。脊髄損傷により手が麻痺している人にこのBCIを装着してもらい、手が麻痺して人と同じようにペンを持っていると想像しながら紙に文字を書くことを「試みる」よう指示しました。計測された脳内での神経活動からペン先の速度を線形復号して、各文字の再構成がおこなわれました
このBCIを使用して文章を作成したところ、94.1%の精度で毎分90文字のタイピングに成功しました。このタイピング速度は、他のBCIで報告されているものを上回り、参加者の年齢層における一般的なスマートフォンのタイピング速度(毎分115文字)に匹敵するものでした。現段階の課題として、大文字がないなど対応できる文字数が少ないことやテキストの削除や編集ができないことなど改善点があげられますが、この研究によって近い将来手を使わずなくてもスムーズに手書き文字でのコミュニケーションが取れるようになるかもしれません。