スポーツでよく聞く「ゾーン」って何?

神田将寿
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ゾーンとは超集中状態とも呼ばれるもので、一般的には、よくスポーツの場面で使われています。トップアスリート達が「ボールが止まって見えた」と表現する場面を聞いたことがあると思います。このような状態の時に、ゾーンに入ったと表現されるようです。バスケットボール選手が3ポイントシュートを連続で決める、アーチェリーでど真ん中を連続で打ち抜くなど、抜群に高いパフォーマンスが発揮される時に使われています。

その時アスリート達には、何が起こっているのでしょうか。また、ゾーンに入る方法はあるのでしょうか。

 

〇ゾーンの起源

ゾーンとは、もともと心理学の用語で心理学者のミハイ・チクセントミハイが用いたとされています。またゾーンと同じ意味を持つ言葉として、フロー、無我の境地、忘却状態という言葉が用いられることがあります。

チクセントミハイは、自身の著書で、フローとは「1つの活動に没頭するあまり、ほかのことが気にならなくなる状態、またはその経験がとても楽しいので、大きな労力がかかっても、またそれを経験したいという思いになる状態」だと説いています。チクセントミハイにとって、ゾーンとはまさに「究極の経験」であり、それは次の8つの特徴を持つとしています。

 

1 完全に集中している

2 目標だけに焦点を合わせている

3 時間が速くなっている、もしくは遅くなっているように感じる

4 その経験にやりがいを感じる

5 苦労なくできる感覚がある

6 難しいが、まったく歯が立たないほど難しすぎない

7 その行為がほとんど自然に起きているように感じられる

8 やっていることに満足を感じる

「完全に集中している」「時間が速くなっている、もしくは遅くなっているように感じる」という2つの特徴はスポーツに当てはまりそうですね。しかしながら、「その経験にやりがいを感じる」などはスポーツ以外でも当てはまりそうな特徴です。語源を調べると、様々な意味を持つ「ゾーン」ですが、スポーツで驚異的なパフォーマンスを発揮した際の解説やスポーツ漫画やアニメの影響から、広く使われるようになったのかもしれませんね。

 

〇ゾーンに入るには?

ゾーンとは、緊張とリラックスのバランスが適切にとれた状態であり、高い集中力を維持するものです。ゾーンには未解明の部分が多く、それを体験していても、自らがゾーンに入っていたことに気づかない人も少なくないとのことです。また個人の意識にもよるため、なかなか実験的研究が行われていないのが現状です。

今回は、アスリート達へのインタビューの結果やスポーツ専門家などの意見をもとに、ゾーンに入る方法について説明したいと思います。

 

『ゾーンの感覚は人それぞれ?』

まずは、どのような状態が「ゾーンに入った」といえるのか説明していきます。ある研究では、ゾーンに入った経験のあるアスリート達にインタビュー調査を行いました。するとその感覚は人それぞれ異なるとのことでした。

 

・浮遊感覚
あるバドミントン選手は、「すごく透明なシャボン玉の中に自分が入っていて、コートを走っていた」としており、その際、身体が軽くよく動けたと感じています。また他の選手では、「10 cmぐらい身体がふわっと浮いた感じがあった」という経験が、世界大会で優勝したときを含め二度あったそうです。

 

・俯瞰感覚
サッカー指導者の監督が、試合中に実際はピッチ上で選手の姿を横から見ているにもかかわらず、テレビカメラが映し出す映像のように、上からチーム全体の動きを見ているかのように感じていたそうです。また、ある野球選手は甲子園でバッターボックスに立った時のことについて、「地球と一体化した」と表現しています。また、その状況を「足からエネルギーが来るんです。地面からですね。木が立っているような…」と述べ、自分が大地に根を張る木のようだったと説明しています。

 

・オーラ
アーティスティック・スイミングの選手たちは、世界大会の決勝時に自らが動かすべき手足の軌道を、日常的に使用する言葉でもある「オーラ」として認識したとのことでした。他にも、学生日本一のチームに所属するアメフト選手が、時折「白いモヤのようなもの」を試合中に見ると述べています。「オーラを身にまとったような経験」をした選手もおり、あるアメフト選手は「自分の身体を包んでくれているものが防御してくれて、何も怪我はありませんでした」と語っています。また、ある飛び込み選手は、世界選手権等で生み出したベストパフォーマンスの際に、首から下の身体の周囲に「厚さ1cmほどのボディスーツのような膜が張っており、その膜が正しい動きに導き滞空時間を延ばしてくれた」と語っています。

 

・神的・霊的存在の認識
あるラグビー選手は「ピンポン球くらいの白い光の玉が降りてきて、僕の周りをぐるぐる回り始めて、『今日は、私たちがついているから思う存分やりなさい』って言われたんです」と、その時の様子を説明しています。「聞こえるはずのない声」を体験した選手もおり、選手生命に関わる大きな怪我を負いながらも試合に出場していた際に、試合会場にはいないはずの病床の肉親が選手の名前を大声で呼ぶ声が聞こえたという体験をしています。

 

・色の認識
あるバスケットボール選手は、ゴールまでの軌跡として「からし色の線」を認識したとのことです。また、対戦相手の選手に色を感じる選手もいました。
このように「ゾーンに入った」と感じる時の感覚は人それぞれであり、浮遊感を伴うものや、神的霊的な体験をするアスリートもいるとのことです。「ゾーンに入った」時には、なんらかの神秘的体験を伴う場面もあるようですね。

 

『集中とリラックス』

続いて、スポーツ専門家の「ゾーンの入り方」についての見解を紹介したいと思います。

・ICCカンファレンス CONNECTION 異分野対談「石川 善樹 X 中竹 竜二」より
2016年に予防医学専門家とラグビーコーチによる、ゾーンに関する対談が行われました。
そしてこの対談の中では、以下のように語られています。
「リラックスしているお坊さんと、すごく集中しているエクストリーム・スポーツ(スノーボードなどの過激な要素を持ったスポーツ)の選手たちは、脳内が一緒だとわかったのです。つまり、リラックスも突き詰めるとゾーンに行く。それから集中も突き詰めるとゾーンに行く。つまり、集中しつつもリラックスする。
「勝ちたい」とか「アイツ倒すぞ」ということではなく、今この行為をするのだと集中する。すると、ゾーンに入れるとわかったのです。」また、ストレスのかかった状態から一気にリラックスすると、脳にいろいろな快楽物質がでるとのことでした。エクストリーム・スポーツの選手たちは過酷な状況の中でも集中しているため、ゾーンに入りやすいそうです。

 

・レスリング 吉田沙保里より
レスリング世界大会16連覇を成し遂げた、かの有名な吉田沙保里選手はこのように語っています。
「基本的に、ゾーンには入ろうと思って入れるものではないです。ゾーンは究極のメンタリティーですから、それを求めすぎたりとらわれすぎたりすると、逆にゾーンから遠ざかります。」とのこと。ここでも「リラックス」が重要であると語られています。
また吉田選手はゾーンに関する実験も行っています。センサーをつけた状態でレスリングの試合を行い、集中度とリラックス度を測定しました。すると相手選手は集中が上がると、リラックス度が大きく下がったのに対し、吉田選手は、集中が上がってもリラックス度をキープできたという実験結果になりました。
相反するように思える二つの要素、「集中」と「リラックス」の両立の重要性が分かりますね。

 

〇まとめ
今回は、ゾーンとは何か、ゾーンの入り方について説明してきました。ゾーンに入るためには、「集中とリラックス」が重要だと理解できたと思います。しかしながら、あまりに意識しすぎると、リラックス状態が低下してしまいパフォーマンスが落ちてしまうともいえそうですね。

 

〇参考文献
・フロー体験 喜びの現象学, 1996, ミハイ・チクセントミハイ著 今村浩明訳
・いわゆる「ゾーン」における感性的体験に関する一見解 -オーラの観点からの検討-, 2013, 志岐幸子他

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