ギャンブルにはまる脳メカニズム

神田将寿
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・はじめに

2009年に発表された厚生労働省の研究調査結果によると、日本の成人男性の9.6%、成人女性の1.6%がギャンブル依存症であるという実態が明らかになりました。男女平均にすると5.6%であり、カジノが公認されているアメリカやマカオよりも3倍以上高い数字です。日本のギャンブル依存症患者の多くは、パチンコ・パチスロに依存していることが分かっています。ではそこにはどのような理由があるのでしょうか。

・ギャンブルと脳の関係

依存症には脳の働きが大きく関係しています。ギャンブル依存症の場合も、ギャンブル行動を行なわせるドーパミンや、続けさせるノルアドレナリンが過剰に脳内で分泌され、行動を抑制するセロトニンの低下が明らかになっています。また、脳内には、エンドルフィンという興奮状態を高める物質とコルチゾールという興奮を鎮める物質が分泌されます。ギャンブルを行うとこれらの物質が過剰に働きあい、ある種の薬物中毒に陥った状態になります。ギャンブルによって起こる、こうした脳の働きを、意志の力でコントロールすることは非常に困難です。こうした脳の働きは、そのときの行動の記憶とともに強く心理に残り、ギャンブルへと人を向かわせます。

ギャンブル依存症の患者の脳をfMRI(機能的磁気共鳴画像法:MRI装置を用いて脳の活動を可視化出来る方法)を用いて科学的にギャンブル脳の活動を調べた研究があります。ギャンブル依存症の患者は健常者と比較すると、リスクの取り除く方向に切り替える能力が弱いことがわかりました。脳活動としては、リスクを冷静に判断するのに重要な背外側前頭前野と内側前頭前野の活動が弱いことが明らかになりました。また、このような性質は他の精神疾患でもみられるらしく、リスクを柔軟に判断するような課題や介入がギャンブル依存症の回復に役立つかもしれないと結論付けています。

・ギャンブル依存症が深刻化する理由

先述したように、依存症は脳の働きが大きく関係していますが、多くの人は依存を「意志の問題」として捉えてしまいます。このため、症状が深刻な状況にあっても、意志を強くもてば依存症は克服できると考え、症状を悪化させてしまうことがあります。また、依存していることを患者が強く否定する傾向があります。さらにギャンブル依存症の場合は、表面的には身体の異常がみられないため、依存状態の自覚が遅れる傾向があります。
次にあげる「ギャンブル依存症の診断基準」を参考に、夫婦や家族で話し合ってみることをお勧めします。診断基準の10項目のうち5項目以上該当すると、ギャンブル依存症の可能性があります。

〇ギャンブル依存症の診断基準

1) いつもギャンブルのことばかり考えている

2) ギャンブルを止めようとしても止められない

3) ギャンブルをしないとイライラする(気持ちが落ち着かない)

4) 悩みやトラブルからの逃げ道としてギャンブルをする

5) ギャンブルをしていることを隠すため、家族や周囲の人に嘘をつく

6) ギャンブルのために、人間関係や社会生活が損なわれている

7) ギャンブルに使う金額が次第に増えている

8) ギャンブルの負債を、ギャンブルで取り返そうとする

9) ギャンブルをする資金を得るために、犯罪的な不正行為をする

10) ギャンブルによる借金を他者に返済してもらっている

・ギャンブル依存症を克服するために

自分で出来ることとしては、小さな目標を設定しながら、ギャンブルをしない生活を続けるよう工夫し、専門の医療機関を受診するなど、関係機関に相談してみましょう。また同じ悩みを抱える人たちが相互に支えあうコミュニティなどに参加してみましょう。ギャンブル依存症は、回復した後に再びギャンブルを行うと再発してしまうという特徴があります。その点でも、悩みを相談できるコミュニティに参加することはとても重要です。

ギャンブルをしている方に、家族の行事を顧みなくなった、家庭内の金銭管理に関して暴言を吐くようになったなどの変化が見られる場合、ギャンブルにのめり込み始めている可能性を考慮しましょう。また、家族だけで問題を抱え込まず、家族向けのコミュニティに参加するなど、類似の経験を持つ人たちの知見などをいかし、本人が回復に向かっていく支援をしましょう。家族が専門の医療機関、精神保健福祉センター、保健所にギャンブル等依存症の治療や回復に向けた支援について相談することも重要です。

ギャンブル依存症は、破滅的な結果を患者やその家族にもたらしかねない病気です。しかし、けっして治らない病気ではありません。まずは、先述した「ギャンブル依存症の診断基準」を参考に、5項目以上当てはまる場合は、心療内科・精神科を受診して、さらに正確な診断を受けるようにしましょう。

【参考文献】
・Atsushi, F. et al. (2017). Deficit of State-Dependent Risk-Attitude Modulation in Gambling Disorder. Translational Psychiatry

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