その「いいね」は本当にいいの?脳を壊すSNS承認欲求の恐ろしさ
渡邊 優美
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InstagramやTwitter、FacebookといったSNSは、現代を生きる若者には欠かせないものとなっています。
スマホのない時代には現像した写真を友達に見せるしかできませんでしたが、今や写真に留まらず、自分が撮った動画までも、インターネットを通して世界中の多くの人々に見られる時代になりました。
友人と共有するだけのつもりでアップロードした動画が世界に広まり、デビューした歌手やアイドルはこれまでにも多く居ます。そのため、一般人でもSNSを利用すれば有名になれると思い込み、承認欲求を肥大させ、スマホ依存に陥ってしまった若者が増えてきていることが問題となっています。
SNS依存になる原因が、「いいね」機能です。これは、他のユーザーが良いと思った投稿主を賞賛する機能です。「いいね」が多くなれば、メディアに取り上げられる可能性も高くなります。そのため、「いいね」数が多くなればなるほど、自分が認められたような気持ちになる若者が増えているようです。
ですが、SNSでの「いいね」は、確実に多くもらう方法はありません、SNS依存の若者は、あの手この手を使ってより多くの「いいね」を獲得しようとします。「いいね」数を伸ばすために、肌が多く写っているような露出の激しい写真を投稿したり、職場で不適切な行為を行ったりと、危険に踏み込んでしまう若者も多いです。
普通に考えればそのような行動はおかしいと、自主的に規制できるはずなのに、どうして「いいね」を集めたがる若者は自制が効かないのでしょうか。
実は、「いいね」をもらう時に、脳内では麻薬成分が発されているからです。この成分はドーパミンといって、達成感を得たときに、脳が出す成分です。例えば、テストで目標としていた得点を超えた時や、自己記録を更新した時など、それまでできなかったことができるようになった瞬間に放出され、快楽を感じる寸前の気持ちを得ます。ドーパミンによって引き起こされる、もう少しで快楽が得られそうな気持ちはとても強く、人間をはじめとする動物はその快楽を再び得るために、同じ行動を起こし、さらなる成長を遂げるはずなのです。
1950年ごろ、ラットを用いてドーパミンはどのような役割を果たしているのか調べる実験が行われました。スイッチを押すとドーパミンが放出されるように脳に電極を埋め込んだラットは、食べることも眠ることも、繁殖行動も忘れてしまいました。餓死する寸前までドーパミンのスイッチを押し続けたラットもいたという実験結果があります。恐ろしいことに、この実験ではすべてのラットが同じ結果を示しました。子を産んだばかりのラットでさえ、子育てを放棄してドーパミンを放出させるスイッチを押し続けたのです。
覚せい剤などの麻薬も、化学物質の作用で脳内に強制的にドーパミンを出させ、快楽を感じさせ依存させるという作用をしています。
さらに恐ろしいことには、ドーパミンは徐々に効きが悪くなるという特性があります。慣れてしまい、前と同じ量のドーパミンが放出されても快楽を感じられなくなってくるため、ますます多くのドーパミンを欲してスイッチを押す頻度が増えたり、薬剤の摂取量が増えたりといったことが分かっています。
ラットのスイッチや麻薬をSNSの「いいね」に置き換えて考えると、まさにスマホ依存の若者の脳内で起こっていることを説明することができます。いいね依存は、まさに現代社会に蔓延る麻薬です。
他人の評価を気にしないように、意識を変える必要があります。他人が見られないよう、アカウントを非公開にして「いいね」数が友達からしか得られないようにするというのもひとつの手です。また、SNSによっては、「いいね」をつけられない仕様に設定して投稿することもできます。投稿に依存している状態で、いきなり投稿をやめるとかSNSアカウントを消すということは非常に辛いので、リハビリテーションのように、徐々に認識を戻していくのがよいでしょう。
また、周囲の人との関わりを取り戻すのもひとつの方法です。私たちは、日々の生活の中で他人を評価し続けているわけではありません。「良い」も「悪い」も向けられない、評価されない安心できる人とのつながりを思い出して、スマホ依存から抜け出せるように目指すことが重要になってきます。
参考
Positive reinforcement produced by electrical stimulation of septal area and other regions of rat brain. Olds, J., & Milner, P. (1954)