記憶障害や言語障害…認知症になると現れる「中核症状」とは?
「認知症」というと、どのような症状をイメージしますか?物忘れが激しくなったり、日付や時間の感覚がなくなったりといったことを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。これらは「中核症状」という症状の一部で、認知症になるとほぼ確実に現れるといわれています。そこで今回の記事では、この中核症状についてご紹介します。
中核症状とは?
認知症の原因となる病気のなかでも、脳の細胞がゆっくりと壊れていくものを「変性疾患」といいます。日本でもっとも多いといわれる「アルツハイマー型認知症」も、変性疾患のひとつです。
認知症の症状のなかには、脳細胞が壊れることによって直接的に引き起こされるものがあります。それが「中核症状」と呼ばれるもので、認知症になればほとんどの人に現れるのだそう。病気が進むにつれて中核症状も強くなっていき、周囲の現実を認識するのが困難になっていきます。
中核症状の具体例
中核症状には、記憶障害をはじめとしたさまざまなものがあります。具体的に見ていきましょう。
記憶障害
認知症で早くから現れる障害のひとつ。新しいことを覚えられなくなり、ついさっき聞いたことやしたことでさえ思い出せなくなります。病気が進行すると、覚えていたことも忘れるようになっていきます。
見当識障害
記憶障害と同じく、見当識障害も早くから現れます。
「見当識」とは、現在の時間や自分のいる場所といった基本的な状況を、正しく把握する能力のこと。認知症になると時間や季節の感覚が薄れてしまい、予定通りの時間に外出できなかったり、季節感のない服装をしたりするようになります。
また方向感覚が薄らいで迷子になったり、自宅のトイレの場所がわからなくなったりすることも。さらに病気が進行すると自分の年齢もわからなくなり、周囲の人との関係が理解できなくなります。
実行機能障害
頭のなかで計画を立てて行動したり、予想外の出来事にも臨機応変に対応したりすることが困難に。物事をスムーズに進められなくなり、日常生活がうまく立ち行かなくなります。冷蔵庫にあるものをもう一度買ってしまう、料理中に複数の作業を同時進行で行えなくなるなどのトラブルが起こります。
失行
運動機能には異常がないのに、日常的に行っていた一連の動作が行えなくなるのが「失行」です。
たとえば、手足に麻痺があるわけではないのにボタンを掛けられない、スプーンを使って食事ができない、といったことが起こります。
失認
目や耳などの感覚器には異常がないにもかかわらず、五感を通して周りの状況を把握するのが難しくなることを「失認」といいます。
目の前にあるものを立体として捉えられなくなったり、自分との位置関係がわからなくなったり。視野の半分に注意が向きにくくなり、服を着るときに片袖を通し忘れたり、食卓の片側に並んだ料理を食べ残したりする「反側空間無視」という症状が起こることもあります。
言語障害(失語)
言葉を理解したり、自分が思っていることを言葉で表現したりすることが難しくなる言語障害。「失語」ともいわれ、周囲とのコミュニケーションが取りにくくなります。
中核症状とBPSDの違い
認知症の症状は、中核症状ともうひとつ「BPSD」といわれるものに大別されます。BPSDというのは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(認知症の行動と心理症状)」の頭文字。中核症状の進行にともなって現れてくる行動症状・心理症状のことで、かつては「周辺症状」と呼ばれていました。
脳細胞が壊れるという直接的な原因で引き起こされる中核症状とは異なり、BPSDは本人の性格や置かれている環境、人間関係などが絡み合って起こるため、現れ方は人それぞれ。主に次のような症状が知られています。
- 暴言・暴力
- せん妄
- 抑うつ
- 興奮
- 徘徊
- 睡眠障害
- 妄想
- 幻覚
- 弄便、失禁
認知症の人をケアする介護者が心身に負担を覚えるのは、中核症状よりもむしろこのBPSDであるといわれています。
しかし、すでに説明したようにBPSDは環境との関わりが深い症状です。そのため、認知症の人にとってストレスの少ない環境を整えたり、周囲が対応を工夫したりすることによって、症状を和らげることができると考えられています。
まとめ
認知症は誰にとっても他人事ではない病気です。
これからさらに認知症人口は増えていくといわれているので、自分自身の予防のためだけではなく、身近な人に症状が現れたときのためにも、正しい知識を身につけておきましょう。
また、こちらの記事では認知症の早期発見の目安となるチェックリストなどをご紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
→あなたの周りにもいるかも?誰もが他人事ではない「認知症」
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フリーライター
牟田 悠(むた はるか)
立命館大学大学院文学部日本文学専修前期課程修了。フリーライターとして、関西圏を中心に活動中。
質のいい記事をよりスピーディーに書き上げられるよう、脳の働きや集中力に関する情報にアンテナを張っています。