認知症の診察は何科に行くのが正解?専門医に聞く認知症治療の最前線
若い人にとってはなかなかピンとこない認知症。
しかし日本の認知症患者は、高齢化が進むにしたがって着実に増えています。2020年に600万人、2025年には730万人にも達し、高齢者の5人に1人は発症するという推計も。自分や家族のこれからを考えれば、認知症の知識をもっておくに越したことはありません。
そこで認知症について、専門医である古和久朋教授にお話を伺ってきました。古和先生は神戸大学大学院保健学研究科で教鞭をとりながら、同大学医学部附属病院の専門外来「メモリークリニック」で多くの認知症患者を診察されています。
認知症について、驚くほどたくさんのお話を聞かせてくださった古和先生。全5回となるインタビューの第一弾では、認知症治療の現状についてお話してもらいます。
古和久朋 教授
1995年東京大学医学部医学科卒業。臨床研修を経て神経内科専門医を取得後、2000年に東京大学大学院に進学。
アルツハイマー病を中心とした神経変性疾患の研究に従事し、2004年に修了した。
2005年より3年間マサチューセッツ総合病院アルツハイマー病研究室に留学。
帰国後、東大神経内科特任助教を経て2010年4月より神戸大学神経内科講師、
2012年1月より神戸大学神経内科准教授、2017年1月より現職。
認知症のトータルケアを目指し、発症前の予防、早期の診断から症状進行期の対応まで幅広く研究対象としている。
1995年東京大学医学部医学科卒業。臨床研修を経て神経内科専門医を取得後、2000年に東京大学大学院に進学。
アルツハイマー病を中心とした神経変性疾患の研究に従事し、2004年に修了した。
2005年より3年間マサチューセッツ総合病院アルツハイマー病研究室に留学。
帰国後、東大神経内科特任助教を経て2010年4月より神戸大学神経内科講師、
2012年1月より神戸大学神経内科准教授、2017年1月より現職。
認知症のトータルケアを目指し、発症前の予防、早期の診断から症状進行期の対応まで幅広く研究対象としている。
認知症患者は病院に来ない? プレホスピタルの試みとは
ーー先生のご専門を教えてください。
脳神経内科医として、認知症の診療と研究をしています。病院だけでなく、地域での活動も研究のフィールドです。
ーー地域での活動というと?
認知症という病気は、進行すると「自分は大丈夫」「正常だ」と言い張って自分からは病院に行けなくなってしまうんです。なので、病院で患者さんがご家族に連れられて来るのを待っているだけでは十分ではありません。完全に病気が完成してしまう前の段階で、できるだけ早いうちに医療との接点を持っておくことが重要なんです。
そこで重要となるのが「プレホスピタル」期だと考えています。病院に来る前の段階で、脳に変化が起こっている人をいかに見つけられるかということが鍵になります。
ーー具体的にはどのような場がプレホスピタルになるのでしょうか?
基本的には地域のコミュニティです。
たとえば先日、大学のすぐ近くにある地域の自治会と協力して3カ月間のパイロット研究を行いました。週に1度、高齢者の方に集まってもらって二重課題(デュアルタスク)運動などをして、認知機能がどのように変化したかを評価したんですね。こういった試みを、いろいろな地域で継続して行えたらいいなと考えています。
認知機能の評価をするためには「今日は何月何日ですか?」といった質問でテストをするんですけど、これって聞かれるほうはストレスなんですよ。だから質問形式だけではなく、顔の表情や声のトーン、目の動きなどで早期発見ができないかということも考えていて。極めて初期のわずかな変化を見つけるためにも、地域コミュニティの存在は有効だと思います。
コミュニケーションを通して脳全体をしっかり刺激
ーー普段から地域のコミュニティに顔を出していれば、ちょっとした変化にも気づいてもらえそうです。
そうですね。学校や仕事など、若い人はそれぞれにコミュニティをもっているわけですが、年齢を重ねるに連れてどうしても縮小してしまいます。
定期的に集まれる場や、顔を会わせたら立ち話をするような近所とのお付き合いがあるといいのですが、それが難しければ介護保険を利用してデイサービスに通うという選択肢もあります。
認知症の初期段階である「軽度認知障害(MCI)」と診断された人を対象に、予防教室を開いているNPO団体もありますね。脳に刺激を与えるためにも、コミュニティに顔を出すことは大切なんです。
ーー人との関わりが脳への刺激になるのでしょうか?
仕事をしていると、人と話しをしたり、決まった時間のなかで予定を組んでその通りに活動したりしますよね。これは人間の認知機能そのもの。他人と関わることでいい意味でのストレスも受けながら、脳全体をしっかりと使うことができます。でも定年退職などでそうした機会がなくなると、脳の使い方が硬直化して、楽な方へ楽な方へと流れていってしまうんですね。認知症の初期段階であれば、努力次第で認知機能を維持できる可能性もあるのに、脳を使わないのでどんどん進行してしまう。
誰かとコミュニケーションをとるということは、認知機能を下支えするうえで必要不可欠だと思います。
家族が認知症に気づくとき。3つの変化を見逃さない
ーー先生が診察されている認知症の方は、どのようなことがきっかけで来院されたのでしょうか?
家族や介護者が気づいて病院に連れてくるというパターンがほとんどです。認知症って、セルフモニタリング、すなわち自分に何がおきているか、人からどう見られているかといったことを認識するのが難しくなる病気なので、自分で気づくのはかなりハードルが高いんですよ。
だから逆にいえば、自分から来院する人の大半は認知症ではありません。物忘れ外来にひとりで来院する人のうち、認知症患者の割合は5%以下というデータもあります。
たとえば「この間友達と話していて、とっさに人の名前を思い出せなくて恥をかいた」といった話をされる方がいらっしゃいますが、この場合は「物忘れで失敗した」という記憶があるわけですよね。この失敗した経験自体も忘れてしまうのが、認知症による物忘れです。
家族に連れてこられた患者さんに「物忘れはありますか?」という質問をすると、たいていは「あります」と答えます。でも家族が具体的な失敗のエピソードを話すと「私はそんな失敗してない!」と否定されるのが典型的な反応です。
ーーご家族が「認知症かも?」と気づくのはどういった変化なのでしょうか?
多いのは「同じことを何度も聞く」ということですね。僕と話している間にも、3〜5分の間に何度も同じ話をする。特徴的なのは、そのフレーズが一語一句までまったく同じであるということです。
たとえば人と話していて、強調したいことを何度か繰り返して言ったりすることがありますよね。でもその場合、言い回しや単語などが変わって来るはずなんです。まったく同じフレーズが3度リフレインするのは、認知症である可能性がかなり高いです。
もう少し進行していると、「同じものを大量に買い込む」という話も聞きます。トイレットペーパーや調味料のように、いつ買ってもいいようなものを毎日のように買ってくる。その結果、家には同じものが大量にあるという状況ですね。
あとこれは気づかれにくいのですが、冷蔵庫を見て発覚するという場合もあります。
ーー冷蔵庫ですか?
認知症が進むと嗅覚が落ちるんですね。だから食べ物が腐っているということがわからず、冷蔵庫にどんどん食べ物を溜め込んでいくんです。数年前のものが入っている場合もあるので開けた瞬間はものすごい臭いなんですが、それに気づかない。
ーー年単位で!そんなに気づかれないものなんですね。
家族はともかく、友達だと家にお邪魔しても冷蔵庫を開けたりはしませんからね。
さらに進行すると冷蔵庫の外にも腐ったものがあふれ始めていわゆる「ゴミ屋敷」状態になり、そこで始めて周囲の人が動き出すというパターンもあります。
「認知症かも?」と思ったとき、専門医に診てもらうためには
ーー今言われたような変化が身近な人に起こったとき、病院はどの診療科に行くのがベストなのでしょうか?
それは認知症治療におけるいちばんの問題点。実はこれだけ患者数が多いのに、認知症がその科で診察する主要な病気、という診療科がないからです。
考えられるのは脳神経内科や精神科、脳神経外科ですが、それぞれの科で認知症に詳しい先生もいればそうでない先生もいるというのが実情ですね。
ーーえ!? となると、いったいどうすればいいのでしょうか…?
神戸市の場合であれば、市内にある400以上の医療機関で65歳以上を対象とした無料の認知症検診を行っています。
もちろんすべての病院に認知症の専門医がいるわけではなく、共通の検査や問診票を使い、参考となる診断基準も設けているんですね。それをもとに診察していただいて、少しでも気になる点があれば専門医に紹介するというスクリーニングシステムになっています。
ーー患者さんが認知症専門の先生のところにたどり着くための道筋があるということですね。そうした検診は、全国で行われているのでしょうか?
広がりつつはありますが、まだ全国で行われているわけではありません。
ですので、認知症検診がない地域の場合はまずは各地域に整備されている「認知症疾患医療センター」に相談することをおすすめします。
また認知症学会あるいは老年精神医学会の専門医の先生がインターネットで公表されていますので、まずはこういった先生がお近くにいないか探してみてはいかがでしょうか。
まとめ
発症してしまうと、自分で気づくのが非常に難しい認知症。
今回お話を伺って、小さな変化に気づいてもらうためにも、脳全体を活性化させるためにも、普段から地域のコミュニティに顔を出すことが大切だということがわかりました。
全5回となる古和先生へのインタビュー。次回は若い人も無縁ではいられない「若年性認知症」についてお話していただきます。
認知症の専門医・古和久朋教授インタビュー記事
第二回:認知症は高齢者だけの病気じゃない!専門医に聞く「若年性認知症」
第三回:40歳から始める認知症予防① 血管を柔らかくしてアミロイドβを排出
第四回:2019年12月中旬公開予定
第五回:2019年12月下旬公開予定
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フリーライター
牟田 悠(むた はるか)
立命館大学大学院文学部日本文学専修前期課程修了。フリーライターとして、関西圏を中心に活動中。
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