突然の脳卒中 リハビリが機能回復のカギ!
神田将寿
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脳卒中は脳内の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたりする(脳出血)病気の総称です。脳梗塞には、ラクナ梗塞(脳の細い血管が詰まって起こるもの)およびアテローム血栓性梗塞(血管壁にこびりついた脂質が詰まって起こるもの)、心原性脳塞栓症(心臓内に出来た血栓が詰まって起こるもの)などの種類があります。脳には歩行などの運動、身体感覚、温度調節などを司る場所があります。そのため脳卒中で起こる症状は、運動麻痺(手や足が動かしにくくなる)や感覚麻痺(触っているものの温度が分からない・味が分からない)、記憶障害など多岐に渡ります。また損傷の部位や大きさによって症状が変わります。中でも脳梗塞は発症率が最も高く、脳卒中死亡率の半数以上を占めています。また脳梗塞は、介護を必要とする要因で最も多いともいわれています。その脳梗塞が最も多く発症する季節が夏なのです。全国労災病院において2002年度から2008年度の全脳卒中症例46,031例を対象とし、脳卒中病型別に比較検討が行われました。
脳出血・くも膜下出血は冬に多発する傾向にある一方で、ラクナ梗塞・アテローム血栓性梗塞は夏に急増する傾向にありました。夏に脳梗塞が急増する理由としては、脱水によって血液の流れが悪くなり、血管が詰まることが要因とされています。
これまで説明したように脳卒中(脳梗塞)は夏に注意が必要です。特に高齢になると温度変化を感じにくくなるため、こまめに水分補給をするなどして対策をしましょう。また日本脳卒中協会では次のような標語を作成し、脳卒中の予防を呼び掛けているので参考にしてみてください。
・脳卒中予防10カ条
脳卒中の治療方法は主に薬物療法とリハビリがありますが、どちらも早期の発見・治療が大切です。
薬物療法としては経静脈血栓溶解療法(t-PA治療)というものが、現在最も有効とされる治療法です。
t-PA(組織型プラスミノーゲン・アクティベータ)という薬剤を点滴で投与します。治療を受けた場合、約4割の患者さんは、症状がほとんどなくなる程度まで回復することができます。当初は、発症3時間以内の脳梗塞患者さんに限って使用されていましたが、その後ヨーロッパを中心とした臨床試験で、発症4.5時間以内まで有効で安全に使用できることがわかりました。日本でも2012年9月から発症4.5時間以内まで使用可能時間が延長されました。
上記のように出来るだけ早く発見することが回復のカギとなっています。早期発見のための取り組みとして米国の脳卒中協会では脳卒中の疑いのある人を見かけたら、3つのテストを行うよう呼び掛けています。これはFace, Arm, Speech, Timeの頭文字を取り「FAST」と呼ばれています。またこのテストは簡単に行うことが出来るため、日本でも「ACT―FAST」キャンペーンなどが行われ、広く知られるようになってきています。以下に方法を解説していますので、参考にしてみてください。
Face: 笑顔が作れますか?
→顔がゆがんでいる、片方の頬だけ下がっていませんか?
Arm: 腕を上げたままキープできますか?
→両腕を水平に持ち上げると、片方だけ下がってきませんか?
Speech: 短い文がいつも通り話せますか?
→言葉が出てこない、ろれつが回らないなどの症状はありませんか?
Time: 上記の症状に気づいたら時刻を確認し、すぐ119番を!
続いて早期のリハビリによる治療が効果的である理由を解説していきます。
リハビリが普及するまでは、脳卒中後には絶対安静が必要だとされてきました。しかし近年の研究で受傷後は出来るだけ早くリハビリに取り組むことが有効だということが明らかになりました。実際に“術後安静”という考え方は無くなりつつあり、入院直後から立位練習などを行うケースが増えています。具体的には、足に力が入らない場合には膝関節を固定する装具を用いての立位練習や起立台を用いて出来るだけ体を起こすリハビリなどが行われています。
ある研究では安静臥床のままでは、1日に約1〜3%、1週間で10〜15%筋力低下が起こり、3〜5週間で約50%に低下すると報告されています。そのため、実際のリハビリの現場では血圧やその人の体調を確認しながら、積極的に座位や立位をとり活動量の増加を図ります。これは脳卒中に限らず、入院中の筋力や体力の維持・向上のために実施されています。
続いて脳卒中後の回復過程について説明します。ある研究では、障害を受けることなく残存している脳の部位の活動を促進することが回復に効果的だと報告されています。またその期間は受傷後~3カ月までが最も重要といわれており、その期間にリハビリを集中的に行うことがカギになります。
3カ月以降であっても神経回路の回復は見込めると考えられています。サルの脳を用いた研究では、障害を受けていない部位が受けた部位を補完することが科学的に証明されています。またその現象を取り入れた治療法として、ボバース法や川平法などの手技が用いられています。
他にも、話題のiPS細胞やHALなどのロボットやAIによる治療など様々な研究が日本でも盛んに行われているため、こちらも期待したいところです。
そもそもリハビリとは1982年、国連によって「身体的、精神的、かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能とすることによって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことを目指し、かつ時間を限定したプロセスである。」と定義されており、一般的なイメージである“歩く”“食べる”のみに留まらず、その人の生活全体を捉えるのがリハビリだといえます。リハビリを行う人は、主に理学療法士(歩くなどの基本的動作)、作業療法士(食事などの応用的動作)、言語聴覚士(話す・理解するなどの言語に関するものや飲み込みなどの食事に関するもの)です。どのリハビリにおいても早期から取り組むことが推奨されています。
発症後の基本的な流れとしては、発症早期(可能であれば当日)から、麻痺がある手足の関節を無理なく動かす関節可動域訓練を行います。これは、麻痺のある手足を動かさないと関節が固まって、機能回復があまり期待できなくなるためです。麻痺の程度にもよりますが、病状が安定していれば早期から座位姿勢をとるように訓練をします。この場合、長い時間起こしても血圧が下がりすぎないことを確認してから行います。座位が安定すれば立位訓練を始め、安定して立てれば歩行訓練へ進みます。さらに起居(寝返りや起き上がり)・移動・更衣・整容(身だしなみを整えること)・食事・排泄など日常生活で必要な動作の訓練をしていきます。
〇まとめ
気温の高い8月には脳卒中のリスクが高くなるため、こまめな水分補給や温度管理によって対策することが大切です。万が一脳卒中になってしまった場合には、出来るだけ早い段階から積極的なリハビリを行うことで歩行などの運動能力や認知機能の回復が期待できます。脳卒中による麻痺を残さないためにも、早期発見、早期治療、リハビリによる機能回復がカギとなることを覚えておいてください。
【参考文献】
・社団法人 日本脳卒中協会ホームページ
・国連・障害者世界行動計画
・病気が見える vol.7 脳・神経 MEDIC MEDIA
・全国労災病院 46,000 例からみた脳卒中発症の季節性(2002−2008 年) 豊田 彰弘
・Stages of Motor Output Reorganization after Hemispheric Stroke Suggested by Longitudinal Studies of Cortical Physiology. Swayne OB et al.