「集中力が低下してきたな」「なんとなく疲れやすいな」と感じることはないでしょうか。
このように脳に靄がかかったような状態のことを『ブレインフォグ』といいます。
近年猛威を振るっていた新型コロナウイルスに感染した場合も、このような状態になることが多いようです。
今回はこのブレインフォグについて、お話ししたいと思います。

〇ブレインフォグとは

まさに脳に霧がかかったような状態のことをブレインフォグといいます。コロナの感染拡大により、この言葉をニュースで耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。ブレインフォグは、筋痛性脳脊髄炎※1や慢性疲労症候群の患者に多くみられる症状でしたが、最近ではコロナの後遺症としても多くみられます。症状としては、「思考力の低下」「集中力の低下」「混乱」「物忘れ」「頭がかすむ」などが挙げられます。また認知症に似た症状が出ることから、認知症のリスクを高めるともいわれています。

※1睡眠や休息で改善しない長期間にわたる強い疲労感や脱力、その他さまざまな症状によって、日常生活を送るのが困難になる原因不明の病気。慢性疲労症候群とも呼ばれる神経難病。

〇ブレインフォグの原因

近年の研究によって、新型コロナウイルスが呼吸器だけではなく、脳に対しても様々な影響を及ぼすことが明らかになっています。例えば、脳細胞を直接攻撃したり、脳組織への血流を減らしたりするといった報告が挙げられています。新型コロナウイルスで入院した患者の80%に神経学的症状が現れたという報告もされています。
新型コロナウイルスが脳に到達する経路の1つとして、嗅粘膜(脳に隣接している鼻腔の粘膜)を通過することが考えられます。そのため、医療従事者は鼻腔を綿棒で拭ってコロナウイルス感染の検査を行います。

・アストロサイトへの影響
新型コロナウイルスは「アストロサイト」という脳に豊富に存在し脳内で多くの機能を担っている細胞に感染することが分かっています。アストロサイトは、神経細胞に栄養を供給してその機能を維持するなど、非常に多くの役割を果たしており、脳が正常に機能するのを助けています。
カンピナス大学の研究では、新型コロナウイルスで死亡した患者26人の内、脳細胞にコロナウイルスの感染が認められたのは5人で、その人たちの感染した細胞を調べると66%がアストロサイトに感染していたと報告されています。またアストロサイトが感染することで、倦怠感、うつ、ブレインフォグといった症状がみられると考察されています。

・脳血流量の低下
新型コロナウイルスが脳への血流を減少させるという報告もされています。血流の減少により、神経細胞が死んでしまうため、神経細胞の集合である脳への影響はとても大きいといえます。
ロンドン大学が脳細胞への影響の可能性を示した論文を発表しています。彼らは、ハムスターの脳を用いて、コロナウイルスが周皮細胞(血管形成や毛細血管の血流調整に関わる細胞)の受容体の機能を阻害し、脳組織の毛細血管を収縮させることを報告しました。またコロナの後遺症である、微小血管における脳卒中の要因である可能性も併せて報告しています。

・免疫機能の異常
ブレインフォグのような神経系の症状は、コロナウイルス感染後に体の免疫系が過剰に応答したり誤作動したりした結果であるということも示唆されています。一部の人では、自分の組織を攻撃する「自己抗体」を意図せずに作ってしまう場合があるとのことです。神経系の症状を呈する重症の新型コロナウイルス患者11人から採取した血液と脳脊髄液を調べたところ、全ての患者に自己抗体の産生が見られたことが報告されています。

〇ブレインフォグの対策や治療法

治療法に関しても多くの研究者が検証を行っています。例えば、免疫グロブリン(異物が体内に入った時に働く抗体機能を持つタンパク質)を患者に静脈内投与する治療法などが報告されています。
基本的な生活習慣病予防でもある、睡眠不足や運動不足を解消することがブレインフォグの対策として有用だとされています。

〇まとめ
今回は新型コロナウイルスや認知症に関連のある『ブレインフォグ』についてお話ししました。ブレインフォグの原因としては、アストロサイトの脆弱化、脳血流量の低下、過剰な自己免疫などがあるようです。今日も研究者たちによって、様々な治療法が検証されています。今私たちが出来ることは、生活習慣の改善です。基本的なコロナ対策はもちろんですが、良質な睡眠や習慣的な運動を心掛け、健康な生活を送っていきましょう。

〇参考文献
1) 日経サイエンス,「コロナ後遺症「ブレインフォグ」 免疫異常が関与か」, 2021, (2021年10月15日取得).
2) Crunfli, F. et al. (2021). SARS-CoV-2 infects brain astrocytes of COVID-19 patients and impairs neuronal viability. medRxiv.
3) Hirunpattarasilp, C. et al. SARS-CoV-2 binding to ACE2 triggers pericyte-mediated angiotensin-evoked cerebral capillary constriction. (2021). bioRxiv.

 

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神田将寿