仕事の質を落とさないための中高年ワーク・スタイルとは 〜毎日の習慣と工夫を重ねて、自分らしさを磨く〜
ライターとして活動して、約30年余。大学卒業後の20代から今日まで、どうしたら素直に自分らしい言葉で伝えられるのか、志を高く〝あたま〟を柔らかくできるのかと、試行錯誤を繰り返し、今日まで迷いながら歩いてきました。そんな著者のささやかな実践と発見を、本コラムに込めてみました。第2回目のお題は、「年齢を重ねてできるようになったこと(仕事と習慣編)」。私の振り返りの記録が、皆様の何かに役立つと幸せです。
30〜40代。積極的にチャレンジすることは脳に良い刺激
大学の掲示板に貼られたCanonのポスターの広告コピー(一眼レフカメラ、「ただ一度のものが、僕は好きだ。」)に感動して、コピーライターの道を目指しました。それから広告会社でアルバイトし、広告の学校で学び、そのガッツをかわれて、卒業後は広告会社で働くことができました。
1・2年目の修行時代に、よくいわれたのが「なんか素敵、かっこいい」と思ってはいけないということ。なぜ良いのか? どう工夫したら素敵になれるのかを、あたまで考えなければ「作り手」にはなれない。「受け手」のままだという上司の言葉です。以来、街を歩いていても、ふと足を止めて仕掛けや意図などを考えてみるようになりました。
約10年でコピーの書き方も手書きの原稿用紙からワープロ、パソコンへと移り変わっていき、世の中もIT化の波が押し寄せて一変しました。私も結婚して仕事と家事を両立させ、母として歩みを進めていくにつれて、書くコピーも変わっていったように思います。
「あなたを思うと、あったかい。」これは大丸百貨店の制作(御歳暮の販促)を担当した時の私のコピー。その年のクリスマスシーズンに全国の電飾看板やポスターを彩りました。当時の私は、一番可愛い盛りの2歳の娘を母に預けて仕事に翻弄されていました。その日も深夜帰宅、なかなか会えない娘の寝顔をみて、ふと浮かんだせつなさを言葉にしたものです。
その後、会社勤めを辞めて36歳でライターとしてフリーランス稼業になり、時間的には追われながらも仕事のスタイルは自由度を増し、変化していきました。
当時は新聞記事やタウン誌などの取材が入ると1日に4件・5件と効率よくこなしたくて、1ピースずつパズルを組み込むように綿密に工程管理。夕方までは取材して、家事と育児が終わった10時頃から明け方まで原稿作業に追われる日も多く、スタミナの続く限りがんばった40代がありました。やりたくないことや時間に追われることは脳にストレスですが、自主的に計画をたてチャレンジすることは、中年期の脳を鍛える良い刺激になります。
こころが気持ちいいとあたまも働く
やがて50歳を迎えた頃から、根をつめないと納得のいくものに仕上がらなかったり、大量の資料を読み、音声データのテープ起こしをして自分の言葉に置き換えたりする集中力が続かないことも増えました。これまで歩んできた月日よりも、未来に向かって歩く月日のほうが短くなっていることにも小さな危機感を覚えるようになったのです。
そこで私は、欲張って案件を持ちすぎないように仕事量を調整し、一つ一つの原稿レベルを落とさないように気を配りました。何十年と慣れたレギュラーの仕事においても「これが最後になるかもしれない」という覚悟で取り組み、そうすることで、今、健康で仕事ができる状況にあることに、素直に感謝できるようになったのです。
この頃から、家族や自分への健康に目を向けるようになり、自分の仕事のパフォーマンスが落ちないような工夫をあれこれ試してみるようにしました。例えば、自分をつくる根っこみたいなものを大事にしたいと思い、365日の習慣として「毎日必ずやる」リストを作成。
- 昨日までの自分をリセットし、精神を安定させる「10分瞑想」
- 体をちゃんと動かす「ウォーキングもしくはヨガ」
- 文章のスキルを伸ばし、感受性や想像力を衰えさせないために「好きな本を読む」
- 旬の食材を一日一皿「食卓で暦を味わう」
- 今日一日をメタ認識(自分を外から俯瞰)する「短い日記」
「10分瞑想」を始めたのは、取材の中で高野山真言密教の総本山・高野山にて阿字観(あじかん)(真言瞑想)を実体験し、マインドフルネスの心の訓練法を学んだことがきっかけです。
基本的なやり方は、背筋を伸ばして両肩を結ぶ線がまっすぐになるように座り、目を閉じます。そして呼吸に伴ってお腹や胸がふくらんだり縮んだりする感覚に注意を向け、その感覚の変化を心の気づきが追いかけていくようにします。動作としては息を吸って吐くまでの間(腹式呼吸)に自分の注意力を呼吸にむけて集中するだけ。次々と浮かぶ思考をムリに止めて心をコントロールするのではなく、一歩下がり、受け身の姿勢で(緊張せず)内なる心と体に注意を向けるように意識します。
瞑想を習慣にして少しくらいのことでは慌てない新しい自分に。昨日までのモノコトがリセットできるようになりました。心身を健やかに整えていくことで、仕事にもゆとりが生まれた気がします。
自分を深めていく時間が「次の仕事」にもつながる
子供を育て、守りたい人ができてからというもの、ここに一生分の愛を注ぎ込みました。その経験が功を奏したのか、他所の子も犬や猫や小動物はもとより、草木や花々など自然界の営みを心から美しいと感じ取れるようになりました。
今、早朝には家の周囲をぐるりと40分ほど散歩(ウォーキング)します。生まれたばかりの大気に包まれたブルーモーメント。清らかで美しい時間は贅沢で、濃密なエナジーを感じます。たくさんの小鳥のさえずり、道端に咲く小さな花々が次々に開いて、香しく漂ってくる中、歩く楽しみはかけがえのないものです。
若い頃なら朝の散歩をここまで気持ちよく感じたでしょうか。爽やかな空気に心弾んだとは思いますが、自然の豊かさを享受し幸せに浸るなど深い余韻は感じられなかったと思うのです。
自分にとってムリのないもの、心地よいものを選ぶと、心も体もラクになります。私はいつの頃からか、リネンやオーガニックの綿、カシミアなど天然素材を選んで着るようになりました。朝起きた時は一杯の白湯。お粥や味噌汁など温かいものにし、自然に近いもの(無添加・微農薬など)、地場でつくる野菜や人の手でつくる丹精こめたものを口に入れるようにしています。
また、今年から自分ブレンドのお茶やコーヒーを楽しむようになりました。自分の記憶する嗅覚・味覚に信頼をよせ、ある時は鉄羅漢(中国茶)にほんの少しジャスミンティーを混ぜたり、缶の底に少し残ったアッサムとダージリンを混ぜたり。夕飯時には好きな銘柄の日本酒に天然炭酸水を注ぐ!料理にも納豆とブロッコリースプラウトやゴマダレを加えてと。誰かのレシピをなぞるだけではなく、ちょっとしたアレンジで暮らしに遊び心をプラスしています。
こうはいっても、仕事で遅くなった日は朝寝坊もしますし、情報を一日中遮断して、好きなことをする日も。楽しそうなところへは、仕事を置いて飛んでもいきます。それを良し、と許せるようになったのも年齢を重ねた寛容さの表れで、完璧ではない自分を許せる余力、日常に緩急をつけることが、次の仕事につながることを、時を経た経験から知ったのです。
若い頃は横へと広げていくことばかりに一生懸命。けれど今は、広さより選びとったものを深めていくことに価値を置きたい。そのほうが、深くいつまでも面白がれる気がするから、です。人間の深みとは、悲しみや苦しみにどれほど深く向き合ったかで決まるのだそうです。様々な角度にたって熟考できる、これからの自分時間に大いに期待したいと思っています。
中高年では体力や集中力がダウンし、若い頃と同じ仕事のやり方では、仕事の質を維持するのが徐々にむずかしくなってきます。そこで、心と体、脳を整えて自分の時間をもう一度見つめ直すことで、仕事のモチベーションを上げ、良い仕事につなげることが必要だと気づきました。そのポイントはこちらです。
“「仕事の質を落とさないためのワーク・スタイル」の大切なポイント”
- 「なぜこんなに素敵なの?」作り手の企画意図に思いを馳せる
- 毎日必ずやるリストを作成。できることから実践
- 10分瞑想で、心と体を整える
- 人工的でないナチュラルなもの、自然の豊かさを享受する
- 暮らしにちょっとした遊び心をプラス
- 自分が選びとったものをもう一歩深めてみる
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ライター・コピーライター
みつながかずみ
兵庫・西宮出身。大学卒業後、広告代理店や流通・百貨店のコピーライターとして経験を積む。2001年よりフリーランスのライターへ転身。月刊広告雑誌、企業PR誌、ルポルタージュなど仕事の幅を広げる。本で読んだ街や古い町を歩くことで「脳」に幸せ補給。