脳のパフォーマンスを高める良質な睡眠のために
橋本駿
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「しっかり寝たのに昼間ボーッとしてしまう」「休日は一日中寝て無駄にしてしまう」最近このような人が増加しています。それ、もしかしたら睡眠負債が原因かもしれません。
今回は、睡眠負債を解消し脳のパフォーマンスを高める良質な睡眠のポイントなどを紹介します。
睡眠不足の日は決まって体調が悪かったり、仕事が捗(はかど)らなかったりするものです。ではそもそも、睡眠にはどんな役割があり、寝ている間に脳の中では何が起きているのでしょうか。
出典:質のよい睡眠、取ってる?日々の眠りでパフォーマンス向上!睡眠改善インストラクターに聞いた「効果的な眠り」とは?|Panasonic
わたしたちが眠りについた後、脳内では「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」というふたつの異なる睡眠状態が約90分で交互に繰り返されています。 ノンレム睡眠は脳も身体も眠っている深い眠りです。大脳の睡眠ともいわれ、最初の90分に現れます。
レム睡眠は、身体は眠っているものの、脳は起きている浅い眠りです。 目がピクピクと動く、Rapid Eye Movement(急速眼球運動)が見られることからREM(レム)睡眠と呼ばれます。 夢を見るのもこのレム睡眠のときです。
ノンレム睡眠とレム睡眠、ふたつの睡眠状態を繰り返し、朝に向けて徐々に目覚める準備を整えています。ノンレム睡眠とレム睡眠は眠りの深さだけでなく、役割も異なります。
ノンレム睡眠の大きな役割のひとつが、疲労の回復や細胞の修復です。
ノンレム睡眠中、脳からは成長ホルモンが分泌され組織の修復・再生がおこなわれます。大脳も休息モードに入り、自律神経が整い、精神的疲労も回復します。
免疫力アップや骨格形成、脂肪分解など生命活動の維持に重要な活動がおこなわれるのもこのときです。
また、ノンレム睡眠下の脳内では、アルツハイマー病の原因のひとつとされるアミロイドβなどの脳のゴミが洗い流されるように排出されていることが近年新たに確認されています。
睡眠の重要な役割の一つが記憶の定着です。それを担当するのがレム睡眠です。
脳はレム睡眠下で日中インプットした情報を整理し、脳に記憶として定着させていると考えられています。
このように大切な役割のある睡眠ですが、十分な量がとれていない場合もあります。
睡眠不足が続くことで心身にさまざまな不調をもたらす「睡眠負債」が、近年注目されています。
睡眠不足が借金のように積み重なると、より深刻な「睡眠負債」になります。睡眠負債による心身へのダメージは、年間約15兆円の経済損失を生むといわれるほどです。
では、具体的にはどんな影響をおよぼすのでしょうか。
①集中力・認知機能の低下
集中力・認知機能の低下 まず集中力や認知機能を著しく低下させます。寝不足のとき、ケアレスミスが増えるのは体感としてわかりますよね。 2週間にわたって睡眠を6時間以下に制限すると、2晩徹夜したときと同じくらいまでパフォーマンスが下がるとの報告もあります。
②不安やうつなど精神面への影響
不安やうつなど精神面への影響 精神的疲労も助長します。 4時間半程度しか眠らない日が5日間続くと、不安やうつ、情動不安定の傾向が強まることが明らかになっています。
③脳卒中やがんなどあらゆる疾病リスクの上昇
脳卒中やがんなどあらゆる疾病リスクの上昇 脳卒中やがん、心筋梗塞などさまざまな疾病リスクも高めます。 たとえばある調査によれば睡眠時間が6時間未満の場合、6~7時間睡眠の場合に比べて血管疾患のリスクは4~5倍です。
心身へのダメージの大きさもさることながら、睡眠負債の厄介な点は、簡単には解消できないことです。
スタンフォード大学がおこなった有名な実験があります。
実験では被験者8人を集め、「毎日好きなだけ寝ていい」と14時間ベッドに入ってもらいました。平均睡眠時間7.5時間だった被験者らは、最初の2日は13時間たっぷりと眠ります。その後、徐々に睡眠時間は短くなっていき、3週間後にやっと平均8.2時間に落ち着きました。
結局、被験者らは平均40分間の睡眠負債を抱えていたことになります。
注目すべきは、たった40分間の睡眠負債を解消するのに3週間もかかっている点です。
積み重なった負債を、土日の寝だめ程度で解消することなどできないことがわかりますね。
実のところ、明確な答えはありません。7~8時間が適切な睡眠時間ともいわれますが、体質や生活環境、年齢などによって必要な睡眠時間は異なるからです。5時間の睡眠でバリバリ働ける人もいれば、8時間寝ても日中ウトウトする人もいます。
簡単にできるのが、就寝時のココロと身体を落ち着かせることです。
など、心身をリラックスさせる行動を取り入れましょう。
入浴もおススメです。
ポイントは就寝60分~90分前にぬるめのお湯に15分程度つかること。副交感神経が高まり、深部体温も下がり、よく眠れるようになります。
同時に、刺激を遠ざけることも大切です。
食事は遅くとも就寝2時間前までには済ませる必要があります。
質の良い睡眠には昼間の行動も大切です。
カギとなるのが「メラトニン」と呼ばれる睡眠ホルモン。
「子供の頃は何時間でも眠れたのに、加齢とともに夜中に目が覚めるようになった」という方は少なくありません。それもそのはず、実はこのメラトニン、10歳をピークに分泌量が減少していくのです。
加齢とともに眠りが浅くなるのは自然なことなのですね。
メラトニンの分泌に大切なのが栄養素です。体内でメラトニンが分泌されるには14~16時間程度かかります。
寝る時間から逆算して、朝にメラトニンに必要な栄養素をとることが重要です。
メラトニンはセロトニンからつくられ、セロトニンはトリプトファンと呼ばれるアミノ酸からつくられます。
トリプトファンは乳製品や大豆食品に豊富に含まれています。
ただ、アミノ酸はバランスよく摂取してこそ力を発揮します(アミノ酸桶の理論)から、トリプトファン単独ではなく、他の栄養と一緒にとるのがベターです。
特に海藻などに含まれるマグネシウムやゴマ、レバーに豊富なビタミンB₆は、トリプトファンがメラトニンになるのを助けてくれます。
メラトニンの分泌には、もうひとつ重要な要素があります。
それは光です。朝にとった栄養は光を浴びることでセロトニンになり、メラトニンに変わります。また光は体内時計(サーカディアンリズム)をリセットし、活動的な1日をサポートしてくれます。
睡眠と脳のパフォーマンスには深い関係があります。しかし「眠れない!」と焦るとそれがストレスになり、睡眠の質を下げてしまいます。肝心なのは、日中しっかりと活動できることです。睡眠を上手にとり、活き活きとした毎日を過ごしましょう。
参考情報:
著:山口真由子