「推し」は健康に効く!心を支える明るいオタク活動・推し活とは?
渡邊 優美
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近年、「推し」という言葉をよく聞くようになりました。元々は、「推す」、すなわち「推薦する」という動詞が名詞形になった言葉ですが、近年の若者の間では「人に推薦したいほど好きな対象」という意味合いで使われるようになった言葉です。それまで「〇〇オタ(オタクの略)」あるいは「〇〇ファン」と自称していたオタクたちが「〇〇推し」と言うようになりました。
オタクといえばアニメやゲーム、アイドルなどを愛好するイメージが強いですが、接することで自分が元気になれるものならば何でも幅広く「推し」という言葉を使っています。俳優、作品のみならず、レストランやパティシエなどに対しても「推し」と言う人が増えているのです。
「推し」の活躍を追いかけたり、「推し」のことを考えたりすることで気分が良くなるという効果を感じている人はかなり多いようですが、これは、脳の中でプラスの作用が生じているからです。
推しを見たり、推しのぬいぐるみなどに触れたりと、推しのことを考えている時、脳の中ではオキシトシンという物質が放出されています。オキシトシンとは、通称「愛情ホルモン」とも呼ばれており、家族や恋人といるときに幸せを感じるのはこのホルモンの働きによるものです。特に、親密な人と手を繋いだり、ハグやキスをしたりといった身体的触れ合いをすることで、より多くのオキシトシンが放出されると実験から明らかになっています。ところが、「推し活」をしている時の脳では、直接「推し」に肉体的に触れていなくてもオキシトシンが出て、安心感を得ることができます。また、愛しい存在を身近に感じることにより、全身をリラックスさせる副交感神経の働きが強まるため、寝つきがよくなるなどの効果を実感している人も多いようです。面接などの緊張する場に向かう時に、「推し」の写真を見たり、グッズを握ったりすることで、緊張がほぐれるという利点もあります。
さらに「推し」は、報酬系と呼ばれる神経系の働きにも関係があります。応援している推しが目標達成するなどの成功体験を得ると、その推しに感情移入している人々の脳内ではドーパミンが放出されます。ドーパミンは、達成感やそれに伴う快感を引き起こす脳内物質です。「推し」の感情を疑似体験することで、脳は成功体験を感じ、己の成長をさらに促すのです。
また、脳は過去に一度ドーパミンを放出させた刺激に再び触れると、すぐにドーパミンを出せるようになるという特性があります。そのため、落ち込んでしまった時や元気が足りないと感じる時に、推しが活躍している姿を見たり、推しが歌う曲を聞いたりすると気持ちを少し上向きにするという効果もあります。
楽しく健康的な日々を送るのに良い効果のある推し活ですが、無理をすると逆にストレスを抱えてしまうことも考えられます。楽しく元気な推し活のために、いくつか心がけておくと良いことがあります。
無意識に好きと思える対象を「推し」にする方が、より楽しく推し活をすることができます。脳は、視界でとらえた情報を思考に取り込み、好き・嫌いという気持ちを判断するよりも前に、好きか嫌いかを無意識に判断しています。その間は、なんとたったの2秒です。まさに「落ちる」かのように好きになった「推し」を追いかける方が、好きというポジティブな気持ちが長続きします。
推し活には、お金や時間が費やされるものと考えられがちです。しかし、推しの写真を見たり、出演作品を見たりと、お金や時間をそれほどかけずにライトに楽しむことも立派な推し活です。SNSなどで、どれほどのお金を推しに費やしたかを自慢する人がいますが、そのような人を気にしてしまうと、好きなはずの行為が辛くなってしまいます。また、好きになれない作品がある時に、推しに関係しているからといって無理をすると、ストレスがたまってしまいます。無理をしないという意識は、健康的な推し活に欠かせないのです。
脳は、同じことをよく考えれば考えるほど、回路が繋がりやすくなり、より思い出しやすくなるという性質があります。好きなものについてひたすら考えることで、ポジティブな気持ちを呼び起こす回路がますます働くようになり、推しに対する気持ちとは関係のない部分でもポジティブになりやすく変化していくのです。
このように、推し活は生活に潤いをもたらしてくれるのです。あなたも、素敵な「推し」に出会うことができたら、心の支えとして推し活を楽しんでみてくださいね!
【参考】
Published: 07 January 2009
Being Human
Love: Neuroscience reveals all
Larry J Young