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音楽が認知症を改善する!? 映画『パーソナル・ソング』

須永 貴子(すなが たかこ)
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「映画は社会を映す鏡」という説をご存知ですか?

高齢化社会が進むにつれ、日本では認知症を抱える人の数が増え続けています。それと比例するように、近年日本の映画界では『毎日がアルツハイマー』『ぼけますから、よろしくお願いします』『ペコロスの母に会いに行く』など、認知症をテーマにした作品が増加傾向にあります。海外の作品に目を向けてみても、『しわ』『ロング、ロングバケーション』『わすれな草』など、様々なアプローチで認知症というテーマに向き合う作品が多く見受けられるようになりました。

そこで今回は、認知症に対する音楽療法の有効性にフォーカスを当て、「脳の働き」や「老い」について、新たな視点で考えるきっかけを与えてくれる、ドキュメンタリー映画『パーソナル・ソング』をご紹介します。

© ALIVE INSIDE LLC 2014

映画『パーソナル・ソング』 2014年/アメリカ/カラー/78分
監督・脚本・製作:マイケル・ロサト=ベネット
音楽:イタール・シュール
出演:ダン・コーエン、オリバー・サックス、ボビー・マクファーレン
提供:メダリオンメディア
配給・宣伝:アンプラグド
公式サイト:http://personal-song.com/

音楽を聴いたとたんによみがえる記憶

映画は、大きなスヌーピーのぬいぐるみを抱えた90歳の女性がインタビューに答えるシーンで始まります。認知症の彼女はインタビュアーに対し、「子供の頃のことはすべて忘れてしまった」「何も思い出せない」と繰り返します。インタビュアーは彼女にヘッドフォンを装着し、ある歌を聴かせます。彼女は即座に「ルイ・アームストロングだわ」と反応し、「この曲は『聖者の行進』。学生時代を思い出すわ」と、若き日の思い出を詳細に語り始めるのです。

インタビュアーは、ソーシャル・ワーカーで、老人ホームや病院で音楽活動を主催するNPO法人〈ミュージック&メモリー〉を設立したダン・コーエン氏。もともとIT企業にいた彼は、認知症の人に、パーソナルソング(その人にとって思い入れのある曲)を聴かせることで、音楽の記憶とともに当時の自分や家族のことを思い出すのではないかと仮説を立てます。そして、介護施設や在宅介護など、様々な状況下にいる認知症を抱える人々に会いに行き、音楽療法を実践するのです。

© ALIVE INSIDE LLC 2014

94歳のヘンリーは、呼びかけにもまったく反応せず、目を閉じっぱなしで、娘の名前すら思い出せませんでした。それが、ゴスペルの名曲「ゴーイン・アップ・ヨンダー」を聴いたとたんに目を見開き、「歌っていいのかい?」と断りを入れてから、楽しそうに体を揺らして歌い始めました。そして、「音楽は愛を感じさせてくれる。世界には音楽が必要なんだ」と、核心を突いた言葉を放ったのです。

その他にも、躁うつ病の女性が音楽を聴いたことで2年間手放せなかった歩行器を手放して踊り出したり、表情が蝋人形のように微動だにしなかった人が笑顔と瞳の輝きを取り戻したりと、感動的な瞬間が次々と映し出されていきます。認知症の人だけでなく、躁うつ病や多発性硬化症の人も、音楽を聴くことで笑顔や幸せそうな表情になり、感情が動いたことに感動して涙を流す人もいます。

音楽が記憶を呼び覚ます理由とは?

© ALIVE INSIDE LLC 2014

なぜ、音楽が記憶を呼び覚ますのでしょうか?映画によると、認知症の患者に共通するのは、心を固く閉ざしていることだそうです。記憶は失われたわけではなく、硬い箱に閉じ込められているだけ。音楽が感情に働きかけることで、彼らの閉ざされた心が開き、外界と交流を始めるのです。

著名な神経学者であり、映画『レナードの朝』の原作者でもある、現コロンビア大学医科大学院教授のオリバー・サックス医師は劇中で、「音楽を記憶することや、音楽に反応する脳の領域は、認知症によるダメージが比較的少ない」「音楽は一番、脳の幅広い領域を刺激する」「本人の思い入れのある曲を聴かせると効果的」と解説します。

© ALIVE INSIDE LLC 2014

別の医師は、生産性を重視するがために、高齢者を排除する社会が間違っていると断言します。老いを否定することは、豊かな人間性を剥ぎ取ることになる。年を重ねても、人はその人のペースで成長し続け、経験により知恵をつけていくのだと。

厚生労働省は、2010年には200万人程度といわれていた日本の認知症患者が、2025年には最大730万人にのぼると試算しています。その頃の日本社会や自分と自分を取り巻く状況がどうなっているかはわかりませんが、老いを肯定し、音楽が認知症に限らず人に及ぼすポジティブな力を証明する『パーソナルソング』には、人生を豊かにするヒントが詰まっていることは間違いありません。とりあえず今の自分にできることとして、家族や自分のパーソナルソングをリスト化してみようと思います。

あなたのパーソナルソングはなんですか?

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須永 貴子(すなが たかこ)

国際基督教大学卒。群馬県出身、東京都在住。映画を中心に、エンターテインメントに関する記事を雑誌やウェブ、映画パンフレットなどで執筆中。人の顔と名前を覚えられないことが大のコンプレックスです。